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地方自治職員研修 2005年1月号掲載

e−ガバ時評 (1)
● 石原発言の示す住基ネット政策の転換 ●

「住基ネット」については、一昨年(2003年)の秋以降、長野県の「安全確認実験の結果」が大きな注目を集めていましたが、私はもう一つ別の動きにも注目していました。「住基ネット」2次稼働後、電子自治体推進の中心が総務省自治行政局の市町村課から他の情報政策担当セクションにシフトする影響が、どのような形で現れてくるかという関心です。
 実際それは、とくに昨年春以降、マスコミや政府公開文書などに現れて来ていると思います。たとえば、総務省の研究会・検討会などで、いわゆるベンチャー企業や日本セキュリティマネジメント学会、自治体の技術部門などの関係者が、従来のメンバーであった大学研究者や大手エレクトロニクスメーカーと交代してきていること、あるいは「住民のプライバシーの保護に関する新しい考え方」(プライバシー強化技術やプライバシー影響アセスメント)の調査研究報告書が総務省名で公開されていることなどの形で、みなさんもお気づきではないかと思います。

2004年10月6日付の毎日新聞社「毎日Interactive」(重要記事をインターネット上で公開しているサイト)は、石原信雄元官房副長官の次のような発言を報じています。
 「反対派には100%完璧でないと駄目だという意見もあるが、ある程度まで(安全性が)行き、大局的にみて住民のサービスレベルを向上させるなら技術を導入する決断が必要だ」。
 これは「電子政府推進シンポジウム2004東京」(セキュアな電子政府を推進する会主催、毎日新聞社など後援)での発言。毎日新聞の記者は続けて次のようにコメントしています。
 「住基ネットへの賛否はともかく、セキュリティに万全はないのは常識であり、……石原氏の発言は、官僚社会でも、ようやく当たり前の意見を人前で出せる風潮の表れであり、今後、論議の深化が期待される」。
の発言は、電子政府・電子自治体のセキュリティ問題に対する国の考え方の変化を示している。これで「電子政府・電子自治体」は、「原子力発電」や「予防接種」など、従来から議論されてきた各種政策の「安全性論争」と同じレベルの検討対象になったとも言えそうです。少なくとも市町村の窓口で、「住基ネットは安全です!」と言う必要はなくなった。
 とはいえ、原発は東海村で臨界事故を起こし、インフルエンザなどの予防接種は副作用が大きいため実質強制投与となる集団接種をやめる方向で動いています。
 多くの政策には、何らかの形で「危険性」が伴っていますから、「政策」のもたらす利便とリスクやコストとのバランスは常時観察・評価され、議論されているはずです。とくに新たな政策(制度)である「住基ネット/電子政府・電子自治体」が引き起こす地域住民のプライバシーや基本的人権に対するリスクは、その正確な評価作業がされているとはほとんど言えない状態です。
 だから今回の石原発言によって、自治体窓口で地域住民への説明責任を果たそうとする担当職員のみなさんは、ますます苦情に立たされることになったのかもしれません。
原元官房副長官が「技術を導入する決断」を「誰が」、「どのような情報と基準で」すると考えているのかは、記事からはよくわかりません。しかしこれが、自治事務上の、あるいは自治事務と直接つながる「政策」である以上、市町村が「電子政府・電子自治体」導入の決断から排除されることはあり得ません。
 こうした新しい状況の中で、このコラムでは「100%安全はない」とされた「住基ネット」(電子政府・電子自治体)をどうとらえていけばよいのか、みなさんといっしょに考えてみたいと思います。

©2005 Nishimura, Tohru
連載:2005年1月号より(全タイトルはこちら)
掲載誌:月刊「地方自治職員研修」
発行:公職研 Tel.03-3230-3701(代表)
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