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地方自治職員研修 2005年3月号掲載

e−ガバ時評 (3)
● 自治体職員の「とまどいと困惑」 ●

「住 基ネット運営の一端を担う市町村から選ばれた委員としてとまどい、困惑し続けた2年間でありました。」
 第1期長野県本人確認情報保護審議会の任期終了にともなう「最終報告書」の、「委員個人ごとの総括文書」を、中澤清明さんはこの率直な困惑のことばから書き始めています。中澤さんは上伊那広域連合が運営する電算センターの所長ですから、この困惑は多くの自治体職員の長野県審議会に対する感想も代表しているでしょう。自治体職員から見れば、この審議会は運営も審議内容も「型破り」だったはずです。
 審議会には中澤さんを含めて技術系の委員が4名いました(不破会長と中澤、佐藤、吉田の3委員)。そのため技術的な検討は広範な専門的知識にもとづいて、制度の枠を越えた、高度な内容にまで踏み込んで行われていました。これも多くの自治体職員からは型破りに見えます。

期に出された長野県審議会「第1次報告」(03年5月)は、県の暫定的「住基ネット離脱」を勧告して注目されました。この勧告に対して中澤さんは、「私は住基ネットから離脱を勧告した中間報告に同意いたしませんでした」として、「最終報告」で次のようにコメントしています。
 「インターネットとの物理的接続は具体的危険性が現実化した状態と言えたでしょうか。……理論的には起こりうる危険性を指摘し、早期の対策を促すことで良かったのではないでしょうか。」
 これもまた率直で型破りな審議会報告です。意見の違いにおおらかな報告書なので、中澤さんとは異なる意見は当然記されています。たとえば佐藤千明さんはこう書いていました。
 「住基ネットは、『多少漏れてもいいから走りながら考えよう』、というシステムではない。」
 中澤さんが所長をつとめる「上伊那情報センター」は、77年の開設当初から一貫して富士通の大型コンピューターを利用しており、今後も大型機によって「上伊那広域連合情報化計画」を進めるという方針を持っています。
 これに対して、佐藤さんがネットワーク部長をつとめる「(株)長野県協同電算」は、県内農業協同組合を基盤とする同様の「電算センター」から出発しながら、早い時期にインターネットプロバイダー事業を開始し「全国初のADSL商用サービス」も手がけるなど、長期にわたる「IT」の経験を積んできた民間企業です。
 おふたりの間で、技術の社会的適用とその評価に対する考え方が大きく違うのは当然でした。
IT は、コストや標準化など多くの点で大型機の技術より優れていますが、セキュリティの確保は明らかに「不得手」です。だから熟練したIT技術者は、あらかじめ慎重にセキュリティ対策を考えます。しかし一定のセキュリティ強度を容易に確保できた大型機の技術者には、こうした熟練は必要ありません。
 ご存知のように、「住基ネット」の情報セキュリティ構築は「統一性及び均質性等を保持する」という制度(推進協「セキュリティ基本方針書」)が基礎になっていますが、これは大型コンピューター時代の、単一企業システムのセキュリティ構築に適合させた手法です。ところが「住基ネット」では、3000余の独立した意思決定機能を持つ自治体が参加し、最新の「IT」技術が採用されています。推進協の基本方針では組織や技術の実態に適合しないのです。
 多くの自治体職員は、過去利用してきた大型コンピューター技術の影響を濃厚に受けています。「技術と組織の特性」が「行政の制度」から乖離している情報セキュリティ対策に対して、中澤さんのように「制度」に敏感な多くの自治体職員がとまどい困惑するのは、だからとても自然な反応だと思います。

©2005 Nishimura, Tohru
連載:2005年1月号より(全タイトルはこちら)
掲載誌:月刊「地方自治職員研修」
発行:公職研 Tel.03-3230-3701(代表)
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