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地方自治職員研修 2005年8月号掲載

e−ガバ時評 (8)
● インフラが先か、サービスが先か? ●

山県新見市が合併特例債充当事業として、事業費100億円あまりをかけて、市内12,000の全世帯に光ファイバーを引くそうです。同様の事業は各地で計画されているでしょう。この話を聞いて、インターネット実用化初期のころ、アメリカ西海岸の現地報告の中でNPO/NGOがインターネットによってどれほどエンパワーされているかを精力的に紹介していた岡部一明さん(現東邦学園大学・NPO論)の警告を思い出しました。
 「私たちはインターネットをやりたいのではない。市民運動をやりたいのだ!」。
 当時のNPO/NGOの中には、地域をエンパワーするインターネットの力があまりに大きいため、「導入すればうまくいく」と思いこんで失敗するグループがあったようです。IT導入に熱心な自治体や国は、当時のNPO/NGOの失敗を繰り返してはいないでしょうか? 特に国の指導内容からは、「自治体がほんとうにやりたいサービス」が見えてこないのです。

3月 末発表された、総務省の地域における情報化の推進に関する検討会最終報告「ユビキタスネット社会を実現する地域情報化戦略」の最初の章は、「公共ネットワークの構築」です。そこには「公共ネットワークの地域への開放」という課題も明記されているので、新見市などの事例が総務省の「u-Japan政策」の一環であることが理解できます。
 しかし第2章「公共ネットワークを活用した公共アプリケーションの展開」の内容は、「公共アプリケーション基盤の整備」という、またしても「インフラ先行」型の「IT導入」でした。国の政策では、自治体の「サービス」企画能力獲得や体制整備よりも、「インフラの整備」がはるかに優先されています。
 本家とも言える、ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会の「u-Japan政策」報告書には、「e-Japan戦略」の反省が書かれています。たとえば高速・超高速インターネット利用可能世帯数は、2003年度中にすでに05年度目標をはるかに越えていますが、実際の利用比率では、DSLで利用可能世帯数の24.4%、CATVでは9.9%、超高速の光ファイバー(FTTH)ではわずかに3.2%でしかないとのこと。実需予測をまちがえたインフラ整備−−設備(投資)過剰が、実需喚起のために新たな「公共アプリケーション基盤の整備」−−インフラ整備を求める、という自己循環の構図がここにはあります。
る5月16〜17日、東京で国連情報社会サミット(WSIS)東京ユビキタス会議が開催され、各国から多数の政府、IT企業、NGO/NPOが集まりました。期間中、NGO/NPOが地域社会活性化における情報とネットワークの重要性について、地に足の着いた事例報告と提案をしていたのに対して、日本や韓国の政府・企業の報告は、「バラ色のユビキタス社会」に終始し、「浮いて」いたという印象です。
 こうした雰囲気の中で、市民社会準備委員会(Civil Society Preparation Committee:各地のNPO/NGOなどで構成)の報告が、「誰がユビキタス・ネットワーク社会のgovernanceをするのか?」という問題提起とかなり具体的な提案をしていたのは、とても新鮮で印象的でした。
治体の「IT導入」では、地域社会をエンパワーする「行政サービス」の企画が先行すべきだと思います。それは地域によって、かなり異なるものになるでしょう。ネットワークはグローバルなものです。だから地域的特性を十分「電子政府・電子自治体」−−ユビキタス社会に反映するには、地域の市民社会(civil society)と自治体が、network governance−−ネットワーク全体に関わる政策策定と決定に実効性のある形で参加している必要があります。しかし現実はそうなっていません。

©2005 Nishimura, Tohru
連載:2005年1月号より(全タイトルはこちら)
掲載誌:月刊「地方自治職員研修」
発行:公職研 Tel.03-3230-3701(代表)
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