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地方自治職員研修 2005年11月号掲載

e−ガバ時評 (11)
● 自治体とWSIS(国連・世界情報社会サミット) ●

「いま日本で、情報通信政策によっていちばん苦しい思いをしているのは、企業を別とすれば自治体ですね。なのになぜ、このミーティングに市町村関係者が出席していないのでしょうか? WSIS東京ユビキタス会議の会場にも、自治体関係者は参加していません。」
 2005年8月の暑い盛りの横浜で、WSIS(国連・世界情報社会サミット)チュニス会議とその後に向けた、日本の市民社会(civil society)の体制作りに関するミーティングが開かれました。これは、その席で感想を求められたとき、私から指摘させていただいたことです。

「市民社会」の会合になぜ「自治体」なの(?)と思われるかもしれませんが、主権国家の集まりである国連が、自治体を「各国政府」に分類しないのは当然といえば当然でしょう。とはいえ、総会と安全保障理事会を除く国連の会議では、市民社会と産業界(private sector)の参加が積極的に求められるようになり、WSISの会議にもこの2つのセクターが公式に参加しています。「自治体」が「市民社会」に位置づけられるのは自然なことでした。
 実際、civil societyを構成する11の分野には、NGO、学会、労働組合などと並んで、「自治体」と「国会議員」が明記されているそうです。だからこのミーティングや5月に開かれたWSIS東京ユビキタス会議に、日本の市町村や都道府県からの「参加」があっても、何ら不思議はなかったのです。
WSISの検討テーマは多岐にわたっています。そのいくつかは、たとえば地域の情報通信を支える人材育成(教育)や、デジタル・デバイド緩和のための事業など、現に市町村や市町村が実施している地域的な事業の課題がたくさん含まれています。
 そしてこの数年間WSISの会議が重ねられてきた中で、とくに注目されてきたのが、「ネットワーク・ガバナンス」という基本問題でした。
 「地球規模のネットワーク」という「バーチャル世界」を「統治」するのは誰か?
 WSISはこの問題に、「多様な関係者」(multi-stakeholders)による合意形成という方向性で対応しようとしていますが、当然この原則は、国際、国内のあらゆるレベルにおける「ネットワーク・ガバナンス」に適用されるでしょう。
 現実の「バーチャル世界」(インターネット)を実効的に統治(governance)しているのは、ICANNという独立した国際NGOです。そして、そのICANNが採用してきた「ネットワーク・ガバナンス」の基本原則は、情報公開を基礎とする、ユーザー・技術者による「ボトムアップの合意形成」でした(このプロセスへの参加資格は、「バーチャル世界の住民:インターネット利用者」であるという事実だけです)。
 そのようにして、インターネットの「住民登録」のしくみ(domain name system)やさまざまな通信業務の規則(protocol)が形成・改訂され、長期間堅実に運用されてきました。
 こうしたICANNの実績は、WSISの会議運営に強い影響を与えているだけでなく、国際社会のさまざまな分野で、「ボトムアップによる合意形成」というプロセスを普及させています。
WS ISの検討テーマが、自治体の事業領域に重なるというだけでなく、こうしたボトムアップの合意形成プロセスは、市町村や都道府が今進めようとしている「住民参加」に、大きな示唆を与えてくれるものです。たとえばこのプロセスは、総務省が奨励して強く批判された「参加者の実名登録」手続きとは無縁の、「意見提出」のための原則を持っています。
 ともあれ、国連の原則は、stakeholderである市町村と都道府県に、「ネットワーク・ガバナンス」への参加を強く求めています。

©2005 Nishimura, Tohru
連載:2005年1月号より(全タイトルはこちら)
掲載誌:月刊「地方自治職員研修」
発行:公職研 Tel.03-3230-3701(代表)
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