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6 行政システム(行政サービス)における
人権侵害・プライバシー侵害の発生要因

プライバシー侵害を引き起こす3つの要因

 こうした、本人と行政の間での「プライバシー」に対する考え方のズレの中で、「プライバシーが侵害された」と本人が認識する「プライバシー侵害事件」の発生要因がどこにあるかを検討してみると、主要には以下の3点が指摘できます。

  1. 行政システムにおいては、個人情報を提供する本人はシステムに参加する「主体」ではない
     すでに3つの事例で見てきたように、MIS的なネットワークシステムを採用した行政サービスのシステムでは、そのシステム上で流通する個人情報の本人はそのネットワークシステムの運用・利用に直接関与していません。つまり、ネットワーク上の「自由な個人」の地位を獲得していません。

  2. 行政システム(サービス)の「利用(適用)」を、本人は「選択/拒否」できない
     行政サービスは、当然のことながら行政機関のほぼ独占状態に置かれていて、競争関係にあるサービスがほとんど存在しません。また存在したとしても、それは行政機関の強い指導によってコントロールされている場合がほとんどでしょう。ところが、行政サービスの大部分は、個人の生存や社会的存在を維持していく上で必須のサービスである場合が多数あり、行政サービス利用者(国民・地域住民)はサービスの利用を主体的に選択したり、拒否したりすることが基本的にできません。利用を拒否した場合社会的にきわめて大きな不利益を被ったり、生存などの危険にさらされるのであれば、任意の利用が制度として補償されていたとしても「実質的な強制(全員参加)」であることは明らかです。
     このような行政サービスにおける「個人情報」の収集・利用は、現実には行政側の専権的な処分(自動/強制収集・任意利用)となるため、「個人情報」は本人のコントロールを離れます。
     したがって、行政サービスは、それが可能であれば「競争的な機構」を導入したり(*注1)、本人のコントロールに変わる社会的公正性を担保するための何らかの仕組み(*注2)が必要ですが、そうした配慮を導入した行政サービスは、現在のところほとんどありません(*注3)。

  3. 情報の公開(説明責任の誠実な履行)が欠如している
     本人と行政サービスの提供者(行政機関)との間での信頼関係の基礎となる情報の積極的な公開や、説明責任の誠実な履行は、現状の制度ではきわめて不十分で、またその内容も誠実なものとは言えません。
*注1:
あまりよい例ではありませんが、都市の治安維持という行政サービスのために2つの組織を置いて競争関係を導入した、江戸時代の町奉行所制度の例があります。とはいえ、この行政サービスの本来の受益者は、都市住民ではなく、為政者(幕府)でしたが。
  注2:
行政が任命する審査会などの制度は広く採用されていますが、これは主権者(国民・地域住民)あるいはサービス受給者本人から見た社会的公正性を確保する制度としては、あまりうまく機能しているとは言えません。
  注3:
前述した「介護サービス」では、医療システムにおける事故・事件の多発にこりた厚生省(現厚生労働省)は、サービス事業者間に競争原理を導入することを試みていますが、これも現実にはうまく機能していません。

第3世代的な「プライバシー権」が日本の行政システムに適用できない理由

 これらのことは、人的組織あるいは法制度の執行プロセスとして見た行政システム自体に、本人が主体として参加していない(主権者として位置づけられていない)ことの反映ともいえます。

 こうした日本の現状は、アメリカ的なある種の理想である「公正な自由競争」が機能していることを前提とした「市場原理」が、日本の行政システムが運用されている社会環境には存在していないこと、そのためアメリカ的な「第3世代プライバシー権」の考え方を日本の行政システムに適用することはきわめて困難であることを意味しているといえるでしょう。


●もくじ(Slide番号でジャンプ)

01:行政機関のMIS的なネットワークシステムへの傾斜と 人権保障・プライバシー保障の課題

02:1 東アジアの動向

03:  韓国の全国教育行政システム(NEIS)

04:  My Kard(マレイシア)

05:2 MIS的なインターネットへの警鐘

06:3 行政における統制型(MIS的)ネットワークシステムへの傾斜

07:  住民基本台帳ネットワークシステム(論理的構成)

08:  自治体共同IDC(経済産業省実証実験)

09:4 行政(公共)サービスにおける 個人情報の収集・利用

10:5 行政(福祉)サービスにおける プライバシー

11:6 行政システム/サービスにおける人権/プライバシー侵害の発生要因

12:7 (日本の)NPOおける課題

13:8 NPOをとりまく環境(1)NPOのネットワーク接続

14:9 NPOをとりまく環境(2)ネットワーク環境

15:10 NPOをとりまく環境(3)プライバシー保障

16:11 NPOの課題

17:12 国際的な課題

18:  参考資料